作品紹介
動画出典:20th Century Fox
作品情報
グレイテスト・ショーマン
(原題:The Greatest Showman)
監督:
・Michael Gracey(マイケル・グレイシー)
出演:
・Hugh Jackman(ヒュー・ジャックマン)
・Zac Efron(ザック・エフロン)
・Michelle Williams(ミシェル・ウィリアムズ)
・Rebecca Ferguson(レベッカ・ファーガソン)
・Zendaya(ゼンデイヤ)
公開:
・2017年12月20日(アメリカ)
・日本公開は2018年2月16日
上映時間:
・108分
あらすじ
舞台は19世紀アメリカ、ニューヨーク。
貧しい家庭に育ったバーナムは少年時代から恋心を抱く良家の令嬢チャリティとめでたく結婚し、2人の娘に恵まれる。
貧乏生活ながらも幸せに暮らす一家だが、ある日バーナムの働く貿易会社が嵐による貿易船の沈没により倒産。
夢想家で常に成り上がるチャンスを狙っていたバーナムは沈没した貿易船の登録書を持ち出し、それを担保に銀行から借りた資金で博物館を設立する。
なかなか客が集まらない現実に悩む中、ふとしたきっかけからフリークショーで興行することを決意。
これが成功したことでバーナムは金銭的に余裕を持ち、家族に裕福な暮らしを提供できるようになった。
市民に見世物が受け入れられ、イギリス女王に謁見するまでに至ったバーナムだったが、抗議団体や評論家との諍いが発生するようになり、偽物ではなく本物のショーを見せてやろうと欧州随一のオペラ歌手をスカウトする。
このオペラ興行も大成功を収めたことに気を大きくしたバーナムは借金返済と出世欲から全てを置き去りにして全国興行に出発してしまう。
残された家族や劇作家、出演者らとバーナムとの溝は深まっていくばかりだが…
レビュー
感想
ミュージカル映画って本に例えると「小説」ではなくて、「詩」に近いものだと思う。
ミュージカルシーンってやっぱり登場人物の感情の動きを増幅させるためのものだから、どうしてもストーリーの流れを遮ってしまうし、それでなくても108分とやや短尺なので、唐突なストーリー展開や登場人物の心の機微が追いきれない部分が目立つ。
映画評論家の間で賛否が分かれているのはこの浅めの描写と、史実とかなり違う脚本が原因だろう(詳しくは後半で)。
とは言え、やっぱりミュージカルシーンは流石『ラ・ラ・ランド』(原題:La La Land)で歌曲賞を受賞しているBenj Pasek(ベンジ・パセク)とJustin Paul(ジャスティン・ポール)コンビといったところ。
力強い歌声と華麗なダンス、ミュージカルシーンの演出で細かいことは気にならなくなる。
どの曲も聴きごたえ十分でサウンドトラックが全米ビルボードNo.1獲得したのも納得。
THE NOBLEST ART IS THAT OF MAKING OTHERS HAPPY.
The Greatest Showman
上記の一文はエンドロール前に表示されるバーナムの名言で、和約すると「最も崇高な芸術とは人を幸福にすることだ」といったところだが、この映画でも充分にそれを表現できていたように思える。
「幸せは近くにあった」「ありのままの自分でいいんだ」といったありふれたメッセージが核にある作品だけど、ミュージカルシーンの迫力が真っ直ぐに届けてくれるので、力づけられた人も多かったのではないだろうか。
是非音量を大きくして音楽に浸りながら楽しんで鑑賞してほしい作品。
補足
楽曲について補足。
ゴールデングローブ賞で主題歌賞を獲得した"This Is Me"が注目されがちだけど、僕はジェニー・リンド(バーナムがスカウトしたオペラ歌手)の"Never Enough"を強くお薦めしたい。
この公演を機に主人公バーナムを取り巻く環境がガラッと変わるんだけど、ここでの登場人物らの表情がどれもすごくいい。
ここが深いだけに余計他のシーンが浅く見えてしまうのが残念。
更にストーリー後半に訪れる同楽曲の歌唱シーンでの対比的な表現が本当に美しいので作品鑑賞の際には是非歌詞にも注目しながら聴いて欲しい。
動画出典:Atlantic Records
もっと作品を楽しむために
ここでは主人公のモデルPhineas Taylor Barnum(フィニアス・テイラー・バーナム)の周辺情報を紹介。
本作のタイトルはバーナムが自身の興行で宣伝文句として謳っていた"The Greatest Show on Earth"からきている。
本作でのバーナムの描かれ方はかなりポジティブに描かれているが、ご多聞に漏れず興行師はいかさま師の一面を持つ。
映画のように船の所有権を偽りこそしないものの、最初は黒人奴隷の女性を買い取ってあれこれ触れ回り見世物にしていたらしい。
知ってる人は少ないかと思うが、ディズニー系列で放送されたアニメ『怪奇ゾーン グラビティフォールズ』(原題:Gravity Falls)のスタン大叔父さんが僕の中ではかなり近いイメージ。
ちゃんと市長にもなってるし。
その後は映画にある通り"General Tom Thumb"(親指トム将軍)をはじめとするフリークスの見世物や動物によるショーを行い、ジェニー・リンドの呼び名で知られるJohanna Maria Lind(ヨハンナ・マリア・リンド)を連れてアメリカ巡業を行う。
前半に「史実と違う」と書いた部分についていくつか。
劇作家のパートナーとして映画に登場したフィリップ・カーライルは出会い方が違うし(モデルはJames Anthony Bailey。バーナム61歳の時にベイリーの持つサーカスと合併)、ラストシーンの火事もバーナムの死後の事件のはず(死後54年後。「ピエロが泣いた日」と言われる)。
また、本作ではジェニー・リンドの契約破棄についてやや自分勝手に捉えられるような表現だったが、実際はバーナムのツアー運営のひどさに嫌気がさしたからと言われている。
「スウェーデンのナイチンゲール」と称されるほどの慈善家だったようだし、馬が合わなかったのだろう。
バーナムの商才も相まってかチケットはオークションで販売するほどだったそうだし、"Lind Mania"なんて造語もあったそうだからとんでもない人気だったようだ。
是非聞いてみたいが音源として遺されてはいないみたい、残念。
Nathaniel Currierによるリトグラフ
"The Grand Opening"
Jenny Lindのアメリカ初公演を祝した作品。
出典:Wikipedia(パブリックドメイン)
バーナムのサーカスは統合を重ね、買収され、2017年まで興行を続けていたサーカスRingling Bros. and Barnum & Bailey Circus(リングリング・ブラザーズ・アンド・バーナム・アンド・ベイリー・サーカス)となった。
このサーカス、かなり大規模でアメリカのサーカス界ではかなり支配的な立ち位置にあったようだ。
1952年のアメリカ映画『地上最大のショウ』(原題:The Greatest Show on Earth)では、実際にこのサーカス団員がキャストとして出演していて、当時のサーカスシーンが少し垣間見える。
余談だけれど、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(原題:Indiana Jones and the Last Crusade)やディズニーアニメの『ダンボ』(原題:Dumbo)で見るようなサーカス列車(下のトレイラーにも出てるよ!)はこのサーカス団が使い始めたのが最初らしい。
実際にバーナムと共に活動していた人物らを紹介するので、興味のある人は画像検索を。
映画にある通り「親指トム将軍」として活躍したCharles Sherwood Stratton。
映画には登場していないけど、同じく小人症の妻Mercy Lavinia Warren BumpやHuldah Pierce Warren Bump、Edmund Newellも後に一緒に活動していた。
レティ・ルッツとして登場した髭の女性のモデルはJosephine ClofulliaとAnnie Jones(「フリークス」という呼称の廃止運動のスポークスマンをしていた)。
正直、上記2名以外がややエキストラ的扱いだったのが個人的には物足りなかったのだけれど、その他にちょっと目立ったシーンがあったのがリーズ卿(太った男)Teodulo Valenzuela、コンスタンティン王子(入れ墨男)George Costentenus、犬少年(多毛症の男)Fedor Jeftichew。
長身の男性はモデルが誰なのかわからなかったけど、Angus MacAskillかなぁ。
英語版Wikipediaでは「ストロングマン」になってたし、俳優名で調べてみたらやっぱりマッチョな役で端っこにいたけど、イメージ分けたんだろうか。
後はあまり目立たなかったけど3本脚の男性Frank Lentiniや、シャム双生児のChang and Eng Bunkerもいたね。
当時の様子に思いを馳せながら観てみるとまた一味変わるかも。
補足
本作とは全く関係のないことなんだけど、ドラマ『メンタリスト』の記事を読んでくれた方のために一つ心理学系小ネタ。
誰にでも当てはまることを言っているにも関わらず、「これって私のことじゃん!」と思ってしまう心理学現象のことを「バーナム効果(もしくは心理学者Bertram Forerの名をとった「フォアラー効果」)」と言うんだけれど、この名前の由来になったのがP.T.バーナムの言葉"we've got something for everyone"(誰にでも当てはまる要点というものがある)だったそうですよ。