私も——感染しているのかもしれません
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作品紹介

作品情報

残穢

著者:
・小野不由美

出版:
・2015年、新潮文庫
・初刊は2012年、新潮社

あらすじ

作家の「私」の手許に一通の手紙が届いた。

20年ほど前に書いたホラー小説のあとがきで、読者の体験した奇妙な体験談を募集したものが今もなお届くのだ。

手紙の主、久保は転居したばかりの部屋で何かが畳を擦る音を耳にするという。

しかし音のする方向へ目を向けても何もない。

そんな音が続いたある日、規則的に続く音の合間に振り返った久保は着物の帯のようなものを目撃してしまう。

それ以来首吊り自殺した和服の女性のイメージが頭から離れないという。

この話に既視感を抱いた「私」は過去に読者から届いた手紙を探る。

すると、久保と同マンションの住人の屋嶋から2年前にひどく酷似した内容の手紙が届いていたことが判明した。

204号室の久保の部屋と401号室の屋嶋の部屋で共通しているように見える怪異現象が発生していることに興味を抱いた「私」は久保と会うことを決意した。

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レビュー

感想

まさに正統派の怪談といった感じ。

「祟り」でも「呪い」でもなく「穢れ」を設定したところがいい。

神仏や霊魂の超自然的な存在が懲罰を与える「祟り」、悪意を持った人間によってもたらされる「呪い」はどちらも対象がいるが、「穢れ」は伝染し、拡大する。

本作は「触穢(しょくえ)」をテーマにしており、平安時代の神事にまつわる格式『延喜式』内にある「甲乙丙丁展転」を引いて、穢れがどのように伝播するのかを作中で説明しているのだが、これを辿ると筆者も既に穢れに触れていることがわかる。

つまり、仮に、太郎の家に死穢が発生したとする。このとき、次郎が太郎の家に着座すると、次郎のみならず次郎の家もまた死穢によって汚染される。この次郎の家に三郎が着座すると、三郎もまた死穢に汚染されることになるのだが、この汚染が三郎の家に持ち帰られることはない。ただし、すでに汚染されている次郎が三郎の家に赴いて着座すると、三郎の家も汚染されることになる。しかしながら、四郎が三郎の家で着座しても、四郎が汚染されることはない。死穢はここで伝染力を失う。

小野不由美『残穢』

 

怨みを伴う死は「死穢」となり、それは人につき、土地につく。

現代は人の動きが非常に活発で、穢れの伝播する範囲も非常に広くなる。

読んでいるうちに「あなたの暮らしている家、過去に何があったか知っていますか?」と静かに囁いてくるので、一人暮らしの人はより一層怖いと思う。

普段意識しなかった暗闇、いつもは聞き逃していた雑音、たまたま起きる小さな不幸…。

それらを過剰に意識させ、脳内で無意識に因果関係を作ってしまう。

本作の主人公のように「どうせ思い込みでしょ」「たまたま勘違いしただけでしょ」というスタンスで読んでいたはずなのに、意識してしまうとやたら背後が気になる、扉やカーテンの隙間がなんだか怖い、小さな音が耳について眠れない…。

これが「ホラー」じゃなくて「怪談」のいいところ。

その場で怖がらせるというより、読んだ後にじわりと残る毒のような怖さ。

 

怨霊や亡霊が出ない本作、登場人物がやたら多かったり時代が前後したりで読みづらいかもしれないが、じっくり読んでほしい。

主人公の「私」は明らかに著者の小野不由美を模していて、周辺ジャンルのファンにとっては違った楽しみ方もできるかも。

「で、どれくらい怖いの?」と気になる方のために、第26回山本周五郎賞選考委員のコメントを紹介。

石田衣良「もっともこの本を自分の本棚に、ずっと置いておく気にはならないけどね」
唯川恵「実は今、この本を手元に置いておくことすら怖い。どうしたらいいものか悩んでいる」

小野不由美『残穢』解説

もっと作品を楽しむために

同時期に別の出版社(角川文庫)から出版された『鬼談百景』。

『残穢』とペアになっている作品と言える。

「百景」と銘打っておきながら掲載されている怪談は99話。

長編の『残穢』がちょうど百物語の最後、本物の怪が現れるという100話目にあたる、という仕掛けだ。

短いものだと数行、長いものでも4ページ程度の短編が詰め込まれており、どれも背筋がうすら寒くなる作品ばかり。

『鬼談百景』の短編の中には『残穢』とリンクする箇所もあり、「お気に入り」のYさんは屋嶋、「欄間」のKさんは米溪として『残穢』内にも登場する。

もし、これから読む人がいたら『残穢』→『鬼談百景』の順がいいかも。

映画版でも「あれ…それ書いてますね」というシーンや、後半に立て続けに判明する関連事件で言及されているものがこれにあたる。

動画出典:シネマトゥデイ

 

映画版は「穢れ」ではなく「祟り」でまとめてしまったことと、それを視覚化してしまったのが非常に残念。

うーん、中途半端なホラーになってしまった。

ただ、怪奇現象の演出は非常に良かった。

「こんなの何人気付くんだよ」というほど一瞬だったりするけど。

写真のフラッシュで一瞬画面が明るくなった瞬間に画面に映りこむ歪んだ赤ん坊の顔と鳴き声とか。

思わず巻き戻してコマ送りして確認してしまった。

観終わった後に「ねぇ、なんかあのシーン顔映ってたよね?」「え…そんなのなかったけど…」みたいな話ができるのは怪談っぽくて良い。

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