作品紹介
作品情報
QJKJQ
著者:
・佐藤究
出版:
・2018年、講談社文庫
・初刊は2016年、講談社
あらすじ
西東京市に住む市野亜李亜は猟奇殺人一家で育った女子高生。
血を抜いてそれを本人に飲ませる住宅販売員の父、バーベルのシャフトで撲殺する母、喉を噛みちぎった後につるはしとシャベルで心臓を抉り出す引きこもりの兄、そして亜李亜は鹿の角から削りだした手製のスタッグナイフで刺すというスタイルを持っていた。
母と兄はいつも家にある「専用部屋」で殺人を行い、父が唯一家で殺害した男は干からびた状態で地下室に安置されていた。
不動産業界紙を熱心に読む父との短い会話や、近所の公園でこっそり鳩を殺すOL「鳩ポン」の観察などが亜李亜の日常。
夏のある日、頭痛を感じて帰宅した亜李亜は、部屋で惨殺された兄を見つける。
凶器はおそらくパン切り包丁。
父と母を呼び再度兄の部屋を訪れるも、兄の死体は消失しており、どれだけ探しても血の一滴も見当たらない。
兄殺害の犯人捜しを始める亜李亜だったが…。
レビュー
感想
「誰が兄を殺した?どうやって?」というミステリが入り口だったはずなのに、気付いたら見知らぬ遠い土地にたどり着いてしまった、そんな感覚。
これは選考もめただろうなぁ、賛否両論が極端に出るかもしれない。
猟奇殺人一家に生まれた女の子が主人公なので、そりゃもう殺人に関わる色々が序盤からどっと押し寄せてくる。
序盤は主人公が好きだというMarilyn Mansonの"The Golden Age of Grotesque"をBGMにして読みたいところ。
…いや、これBGMにしたら本の内容頭に入ってこないな。
世界を震撼させた殺人犯の名前もたくさん出てくるし、その分類も興味深い。
連続殺人犯(シリアルキラー):「長期に及び、冷静な判断を下しつつ、殺しつづけられる者。殺人へのフォーカスと、日常へ戻るクールダウンを使い分けられる」
騒動殺人犯(スプリーキラー):「短期間に、おもに屋外で突発的な殺人をおこなう者。ひとたび衝動を爆発させれば、制圧されるまでクールダウンができない」
大量殺人犯(マスマーダー):「入念な準備計画を立て、同じ場所で確実に三人以上殺す者。テロリストに近似するが組織性はない。犯行直後に自殺するケースが多くみられる」
物語が進むにつれ、殺人遺伝子"カインのしるし"はあるのかという展開に。
(カインは旧約聖書に登場するアダムとイヴの息子で、兄弟のアベルを殺害した「人類最初の殺人者」とされる)
このあたりから空気がガラッと変わって面白いんだが、ネタバレになりそうなのでこのへんで。
『QJKJQ』というタイトルの秘密は是非読んで確かめてほしい。
文庫の帯には有栖川有栖の「これは平成の『ドグラ・マグラ』である」、今野敏の「殺人そのものを突き詰めることで、人間を見つめている。脱帽だ」という推薦文が。
『ドグラ・マグラ』は日本四大奇書の一つで、僕はこの推薦文で買うのを決めたのだけれど、正直あまり共通項を感じなかった。
『ドグラ・マグラ』は既に著作権切れ。
青空文庫で公開されているので、興味のある方は是非。
もっと作品を楽しむために
本作執筆時に参考にしたと本人が語る科学ノンフィクションの周辺情報を載せようと思ったけど、途中で間接的なネタバレだと気づき、断念。
読み終わった方は以下インタビュー記事に掲載されている本を読むと面白いと思う。
ここでは本作の筆者について紹介するに留める。
元々筆者は純文学のジャンルにいた。
佐藤憲胤(さとう のりかず)名義で、2004年に第47回群像新人文学賞の優秀作に選出された『サージウスの死神』でデビュー。
ペンネームを犬胤究(けんいん きわむ)に改めて執筆したものが本作。
第62回江戸川乱歩賞を受賞し、今野敏の命名によって佐藤究(さとう きわむ)となった。
…純文学すらのみ込むような勢いで、新しいミステリーのジャンルを創るぐらいでいきたいですね。そうすれば、他の作家のマーケットにもなりますから。それにもう一つ、50歳までに、どういう作家になりたいかというイメージの中で、アメリカ探偵作家クラブのエドガー賞にノミネートされたい、というのがあります。…
※「エドガー賞」は米国で最も権威があるミステリージャンルの賞
やはり目標のある人は強い。
ジャンルを越境し、尚且つそのジャンルの更なる高みを目指す筆者の今後に注目したい。