【小説】村田沙耶香『コンビニ人間』
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作品紹介

JACK
賛否両論ありますが、バッチリ僕の好みでした。

作品情報

コンビニ人間

著者:
・村田沙耶香

出版:
・2018年、文春文庫
・初刊は2016年、文芸春秋

あらすじ

古倉恵子は36歳、大学時代に始めたコンビニのアルバイトを18年間続けている。

幼いころから奇妙がられる子供で、人間関係は希薄で恋愛経験も皆無。

世間一般の「普通」を理解することができなかった古倉だったが、コンビニバイトを経験し、マニュアルに従って行動してさえいれば世界の歯車になれることを実感する。

さらにコンビニで交流する同年代の女性のファッションや話し方を真似し、周りに合わせて表情を作りリアクションをすれば「普通」を装うことができることに気づいた。

それ以降古倉は自分が「普通の人間」であり続けるため、コンビニでの仕事を円滑に行うことを第一に考えて私生活を送る。

しかし、30代も半ばになると周囲からの声も厳しくなり、妹に教わった言い訳も通用しないようになってくる。

再び自分が「普通」ではなくなってきていることに焦りを感じた古倉は、バイトをクビになった白羽という男と再会する。

白羽もまた「普通」ではないと称される人間であったが、古倉は自分が「普通」であり続けるために変化が必要なのでは、と考えた…。

レビュー

感想

これは問題作ですね。

賛否両論あると思うし、苦手な人は気持ち悪くて最後まで読むの嫌かもしれない。

文庫で161ページだからサクッと読めるんだけど。

あらすじで散々「普通」とカギかっこを付けて書いたので勘のいい人は気づいたかもしれないけど、「何考えてるのかわかんない」「何するのかわからなくてちょっと怖い」というタイプの人目線で書かれた作品なので、「普通」に慣れてしまった人からすると考え方がグロテスクだ。

しかし、こういう静かな水面にデカい石を乱暴に投げつけるような作品はむしろ僕の好み。

「わからないものは悪として排除してしまえ」という考え方はいつの世もあるし、「理解できない=怖い、危険」と変換されるのは生存本能に適している。

我々はルールや常識、慣習によって種(集落、家族、チームでも可)の安定を守り、「普通」の状態をキープしようとするが、その「普通」からはみ出してしまう人はどこにでもいる。

そんなはみ出し者の一人である白羽のセリフはおそらくどのジャンルにも置き換えられる。

「…現代社会だ、個人主義だと言いながら、ムラに所属しようとしない人間は、干渉され、無理強いされ、最終的にはムラから追放されるんだ」

村田沙耶香『コンビニ人間』

「この世界は異物を認めない。僕はずっとそれに苦しんできたんだ」

村田沙耶香『コンビニ人間』

 

このセリフに共感を覚える人には問答無用で読ませたい。

「これが会社のルールだから」「みんながこう言っているから」「今までずっとこうだったから」…。

これはマイノリティから見たマジョリティの暴力性と無理解、そしてマイノリティが自分のアイデンティティーを発見する物語だ。
自分がいつもマジョリティであるとは限らない。

その程度の大なり小なり、僕らは常にマイノリティとしてマジョリティと衝突しているのだ。

僕らは皆、古倉であり白羽なのだ。

読んだ後に「私はこれが好きだから」となるか「結局そうしないと負けなんだ」となるのかはあなた次第だ。

僕はもう最後の最後に投げられる全否定のセリフの使い方に震えたね。

JACK
「多様性」が叫ばれる今だからこそ読みたい一冊。

 

もっと作品を楽しむために

やたらと細かい描写やコンビニへの強いこだわり、コミュニケーション不全の観点から「発達障害、アスペルガー症候群、またはその他精神的な病気に関する話では」とのレビューをいくつか見かけた。

僕からすれば「えー、何を読んでたんだよー」という感じだが、調べたところそのあたりの考察をしている方がいたので紹介。

※どちらもネタバレなので小説未読でこれから読もうとしている方はご注意。

もっと詳しく
本作の主人公が発達障害またはアスペルガー症候群なのか分析した個人ブログ。
精神科医の著者が本作を題材に感情失認(アレキシサイミア)について語る。

 

「気持ち悪いから」で読むのをやめてしまったり、敬遠してしまう人がいるともったいないなぁと思うので、当ブログ読者諸君には是非とも先述の「感想」エリアを踏まえた上で読んでほしいものである。

文庫版の巻末にある、中村文則による解説も非常に素晴らしいので最後の最後まで読み切ってほしい。

やたら細かい描写にだってちゃんと意味があるのだ(著者本人がコンビニ勤務しながら執筆活動していたというのもあると思うが)。

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